アトピー性皮膚炎を改善する
〜アトピー性皮膚炎と賢く付き合おう〜
  アトピー性皮膚炎ってどんな病気?
 アトピー性皮膚炎を簡単に定義すると、「アトピー素因の人がかかり、悪化と軽快を繰り返すかゆみのある湿疹性疾患」のことです。
 アトピー素因とは、遺伝的に受け継いだ、この病気になりやすい肌の性質のことです。患者さんの多くは5歳までに症状が現れます。
 そして湿疹が乳児では2か月以上、それ以上の年齢では6か月以上続くときにアトピー性皮膚炎と診断されます。日本人の有病率(病気を持っている人の割合)は、乳幼児で約30パーセント、18歳では11パーセントと推定されています。
 この病気の特徴はなんといっても、がまんできないかゆみです。お風呂に入ったり、布団に入って体が温まるとかゆみもひどくなります。
 また季節によっても肌の状態が違い、1.
夏に悪化するタイプと、2.冬に悪化するタイプに大別されます。
 夏に悪化するのは、大量の汗で皮膚が刺激されること、また湿疹の部分に細菌が繁殖しやすくなることなどが原因です。一方、冬に悪化するのは、カラカラの空気や暖房などにより肌が強く乾燥することが原因です。気温が多少上がると汗をかきやすくなり、肌が潤うためかゆみが減ってきます。
  2001年版スキンケア(異常な皮膚機能*の補正)
  1)皮膚の清潔・・・毎日の入浴、シャワー
・汗や汚れは速やかに落とす。しかし、強くこすらない。
・石鹸、シャンプーを使用するときは、洗浄力の強いものは避ける。
・かゆみを生じるほどの高い温度の湯は避ける。
・入浴後にほてりを感じさせる沐浴剤、入浴剤は避ける。
・患者あるいは保護者には皮膚の状態に応じた洗い方を指導する。
・入浴後には、必要に応じて適切な外用薬を塗布する。など
  2)皮膚の保湿・・・保湿剤
・保湿剤は皮膚の乾燥防止に有用である。
・入浴、シャワー後は必要に応じて保湿剤を塗布する。
・患者ごとに使用感のよい保湿剤を選択する。
・軽微な皮膚炎は保湿剤のみで改善することがある。など
  2)その他
・室内を清潔にし、適温、適湿を保つ。
・新しい肌着は使用前に水洗いする。
・洗剤はできれば界面活性剤の含有量の少ないものを使用する。
・爪を短く切り、なるべくかかないようにする。など
 
*アトピー性皮膚炎における主な皮膚機能異常
・水分保持の低下
・かゆみの閾(しきい)値の低下
・易感染性
  アトピー性皮膚炎ガイドライン2001より
 
  皮膚症状を改善するには
  ■生活習慣を見直す
 化粧品やアクセサリーによるかぶれ、下着や靴下のゴムによる締め付け、ごわごわした衣類の摩擦、入浴時にナイロンタオルでごしごしこする習慣など、知らず知らずに行っていることが悪化の原因となる場合が多いものです。また皮膚をかきむしらないよう、爪は常に短く切っておきましょう。
 患者さんのなかには、喘息やアレルギー性鼻炎など、アレルギー性の疾患を持つ人が少なくありません。ダニ、ハウスダスト等を減らすため、掃除機はこまめにかけましょう。
  ■スキンケア
 皮膚炎の症状が軽い場合、適切なスキンケアだけで状態が改善することも珍しくありません。皮膚を清潔に保つこと。石鹸やシャンプー成分が残らないようよく洗い流すこと。保湿力のある入浴剤を使うこと。入浴後は市販のクリーム、ローション等で乾燥を防ぐことなどが大切です。ただし、湿疹のある場所には塗らないでください。かぶれたり症状が悪化する原因になりかねません。
  ■軟膏などの塗り薬
 スキンケアだけでは改善しない湿疹や悪化したアトピーには、非ステロイド軟膏、ステロイド軟膏などの塗り薬が処方されます。副作用ばかりが強調されますが、ステロイドは適切に使用すれば決して恐ろしい薬ではありません。ニキビのあるところや正常な皮膚を避け、手のひら大の範囲にか米一粒分の薬を薄く延ばします。かゆみがなくなり、ガサガサやブツブツが消えるまで(約2週間)、毎日または1日おきに塗るのが原則です。
 また近ごろ、成人の難治性アトピーに対し、免疫抑制剤が入った軟膏が使用されることも多くなりました。
  ■内服薬
 塗り薬でかゆみが治まらない場合は、抗ヒスタミン剤、抗アレルギー薬など飲み薬が処方されることもあります。また最近はさまざまな漢方薬も一定の効果をあげることがわかってきました。しかし漢方薬は、患者さん一人ひとりの状態に合わせた処方が必要なので、経験を積んだ医師に相談しましょう。
  ■食事療法
 アトピーには食物アレルギーの関与も大きく、乳幼児の悪化原因の70〜80パーセントは卵と牛乳だといわれます。原因が特定されると医師や栄養士の指導のもと、その食物を食べないか、減らす「食物除去療法」が行われます。
 本当に食物アレルギーが原因がどうかを知るには、皮膚テストなど厳密な検査が要求されます。乳幼児の成長に必要な栄養分が充分摂取できなくなる恐れもあるので、家族の判断による食事療法は非常に危険です。
  もしも症状が悪化したときには
 この病気の経過は、人によって実にさまざまです。例えば、3歳頃までに治ってしまう人。成人になっても湿疹が続く人。なかには小学校低学年でいったん治り、思春期に再発する人もいます。また症状が悪化する原因も一人ひとり異なるので、経過や治療法を他人と比較するのは全く意味がありません。
 かゆみがにどくなったり、新しい湿疹ができたり、赤みが増してくるなど、症状の悪化に気付いた日には、前日の様子を振り返ってみましょう。悪化の原因は前日にあり、です。
 例えば、1.ストレス、過労、睡眠不足など主に精神的要因、2.シャンプーや石鹸を変えた、塗り薬や保湿剤を変えたなど皮膚の刺激要因、3.食べ物や飲み物、また食品に含まれる添加物など飲食物要因。以上3つのグループに分けて考えると原因を特定しやすいものです。
 ちなみに精神的要因では顔面の皮膚炎が悪化しやすく、皮膚刺激要因の場合はある特定の部位だけ悪化し、飲食物の場合はいったん悪くなると3〜4日はその状態が持続する傾向があるようです。原因を特定するために、生活日記をつけるのもよい方法です。
   アトピー性皮膚炎は治癒までに長い経過をたどるため、精神的に追いつめられる人も少なくありません。またさまざまな情報が氾濫し、効果が科学的に立証されていないスキンケア製品を高額で販売する「アトピービジネス」も後を絶ちません。
 アトピーと付き合う方法は一人ひとり違うので、他人の体験談は必ずしも自分に当てはまりません。自分にとって最良の方法を見つけること。それが症状を改善させる早道です。
 氾濫する情報にまどわされず、自分の身体が発するメッセージに耳を傾けましょう。
 


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