脳梗塞 〜脳梗塞は減っていない!〜
現在、日本人の死亡疾患の順位は、がんに次いで脳卒中が2位となっています。そして、脳卒中といわれるなかでも、脳梗塞は最も死亡率が高く、また発症率は年々増加しています。麻痺、言語障害、痴呆などの後遺症が残ることもありますが、予防が不可能な病気ではありません。
   脳卒中とは、一般によく使われる言葉ですが、これは病名というよりも一つの症状を意味しています。脳を流れる血管の病変によって、脳に機能的・器質的障害をきたすことを脳血管障害と総称していますが、その障害が急激に起きた場合を脳卒中とよんでいます。さらに脳出血、クモ膜下出血、脳梗塞に大別されます。
  脳梗塞はこうして起きる
 なんらかの原因によって、脳の動脈内腔がふさがれ、そこから先の組織に血液がながれなくなると、血液が運ぶ酸素や栄養分を供給できなくなるために、脳の組織が部分的に壊死します。この状態が脳梗塞です。
 また、脳梗塞でも血管のふさがり方によって種類が分かれます。1つは「脳血栓」といわれ、脳の血管そのものが動脈硬化を起こし、それによってできた血栓(血液が固まったもの)が徐々に大きくなって血管をふさいでしまう状態をいいます。もうひとつ「脳塞栓」といわれる状態があります。これは、心臓など脳以外の場所でできた血栓などが、血流にのって流れていき、脳の血管につまってしまう場合をいいます。
 脳梗塞は通常、この2つに分類されます(表参照)。しかし、発症状況や症状などは分類したようなケースとは限らないので、一般の人には区別できません。
 脳血栓も脳塞栓も、脳細胞が壊死した部位によって、現れる症状は異なります。よく知られている症状としては、麻痺、知覚障害、失語などです。また、通常の動作ができない、道に迷う、人の顔が判別できないなどの症状もあります。
  ■脳梗塞の分類
  発症状況 危険因子
脳血栓 数分から1日以上かかってゆっくりと進行する。血圧の低下する夜間、睡眠時に起こることが多い。朝起きたら口がもつれる程度だったのが、徐々に手足がしびれ、倒れてしまうというケースがよくみられる。 高血圧症・糖尿病・高脂血症・膠原病・血圧降下薬の飲み過ぎ
脳塞栓 脳血栓に比べていきなり血管がつまるため、ゆっくり進展することはほとんどない。症状は数秒から数分以内に現れ、脳卒中のなかで最も急速。一般に脳血栓より重症になりやすい。発生率は心臓に異常がある人が大半を占めている。 心臓弁膜症・心筋梗塞・心筋症などの心臓疾患
不整脈・高血圧症
   
こんなサインが危険信号
 朝起きたとき、手足が思うように動かない、ろれつがまわらない、よだれが止まらない、しびれた感じがあるなどの症状がみられ、さらに周りの人からも、なんとなくいつもと違って様子が変だとみられるときは、脳梗塞の可能性があります。
 また、脳梗塞特有の症状として、一過性の発作が起こる例も多くみられます。これを「一過性脳虚血発作」といいます。この発作は脳梗塞と同じ症状で、一時的に脳の血管がつまったり、動脈の強い狭窄によって起こるものです。しかし、血栓が自然に溶けたり、流れたりして血管のつまりがとれて、短時間で症状が治ってしまいますが、数秒から数分(多くは15分以内)、長くても24時間以内に回復します。
 一過性脳虚血発作は、脳梗塞の大発作を起こす前ぶれとみられ、その後脳梗塞に移行する確率が高いことが知られています。症状が治まったといっても、すぐに医療機関での検査が必要です。

  治療には迅速な対処を
 脳の細胞は、酸素や栄養分の不足にとても弱く、脳の血流が途絶えると、その周囲の神経細胞は15分から1時間ほどで壊死してしまいます。そのため、脳梗塞の治療は、一刻も早く開始することが重要です。
 治療は薬物療法が中心となります。「血管溶解剤」、「抗凝血剤」、「抗血栓剤」などの投与を行ない、急性期には、血管内に注射する方法もあります。一過性虚血発作の場合は、薬物療法で十分な効果が期待できます。
 このような治療を内科的治療法といい、細い血管の閉塞に対しては、ほとんど、この治療法が施されます。
 内科的治療法では途絶えた血流が改善されなかった場合や、太い血管の閉塞など、条件によっては血管を手術することもあります。これを外科的療法といいます。
 半身の麻痺や言語障害などの機能的障害が残った場合、この後遺症をできる限り回復させるためには、早いうちにリハビリテーションを始めることが大切です。一度失われた機能を完全に元どおりにすることはできませんが、リハビリテーションによって日常生活に不自由しない程度まで回復させることも可能です。
  危険因子を改善する
 脳梗塞の危険因子のなかでも、最も重視されるのは高血圧です。これは、血管に高い圧力が加わった状態が続くと、動脈硬化を引き起こし、これが脳梗塞の原因となるからです。同じ理由から、高脂血症も重大な危険因子といえます。また、糖尿病や心臓疾患(特に弁膜症、心房サイドの不整脈)を持つ人は、そうでない人に比べて脳梗塞を起こしやすいので、これらの病気をちきんと治すことに専念してください。
 予防法は、血圧のコントロールをはじめとして、危険因子を改善することですが、これは生活習慣病全般にいえることです。
 よく知られていることですが、食生活を中心とした日常の管理が基本となります。塩分を控える/動物性脂肪を摂りすぎない/多量飲酒を避ける/ストレスをためないなどが主な注意事項です。また、血液中の水分が減ると血液の流れが悪くなり、脳血管がつまりやすくなるので、水分の補給を心がけることも大切です。


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