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医師会からのお知らせ

第29回健康と医療作文コンクール

優秀賞

「メンタルヘルス」
飯野 沙貴
甲府西高校2年
「なんで泣いてるの?」そう聞かれた。自分でもわからない。最近なんだかずっと不安だった。そして、何かのきっかけで自然と涙が出てきた。高校生にもなってなぜ私は泣いているのだろう…。
心の健康。私は高校の保健の授業で健康とは、「病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的には、すべてが満たされた状態にあること」と定義されていることを習った。加えて、先生は「最近はメンタルヘルスが重要視されている」と教えてくれた。この時、私は聞き流してしまった。中学生の時は皆勤賞、風邪はひいても年に1、2回、これまで至って健康に過ごしてきた。だから、身近に感じられなかったのだ。しかし、メンタルヘルスを理解するきっかけとなる出来事が起こった。
高校に入学したがコロナのため長い休校期間を家で、憧れていた高校生活とは程遠い生活を孤独の中ですごした。やっと、学校に登校し部活動が始まって私は運動部に所属。マイナーな競技のため、その時部員は私を含めて2人だった。ある程度楽しい生活を送っていたが、ある時をきっかけに大切な部員でもあった友達が学校に来なくなり、部活もやめてしまった。理由がわからなかった。一番近くにいたのに。相談に乗ってあげたかったし、友達の変化に気づけなかった自分が悔しかった。自分のせいだと自分を責めた。1人になってしまい、表向きは繕っていたが正直きつかった。追い討ちをかけるように孤独をありありと感じる状況になってしまったのだ。多数の部員がいる部活を見るとどうしても羨ましく思ってしまい、いつの間にか目で追ってしまっている。そんな自分も嫌だった。この時の自分は完全に自分の殻に閉じこもり、周りが見えているようで見えていなかった。出来るだけ多くの時間を私に割いてくれた顧問の先生、心配で見にきてくれる引退した3年生の先輩、声をかけてくれた担任の先生。沢山の支援があったのに私の心はシャットアウトしていた。何もかも嫌になった。やりたくない、できない、元気がない。「〜ない。」私の頭と体は否定系で埋まっていた。それでも学校はいつもにようにやってくる。部活の試合は近い、新しい技を仕上げなければならないのにうまくいかない、課題の期限は迫ってくるのに手をつけられない、小テストで受からない日々が続く、試験がやってくる。目まぐるしく進む日常は私を待ってはくれなかった。なぜ、できないのか?やらないのか?と自分を責め、一杯一杯になっていた。ずっと、情緒不安定な日々が続いた。そして、ある日の部活の時、自然と涙が出てきた。人前で涙を流してしまい、恥ずかしかったし自分でも訳が分からず呆然としていると顧問の先生が言った。「自分を追い込みすぎだよ。心の中を整理しな。」と。
初めてメンタルヘルスの大切さを身をもって実感した経験だった。こんなに心と体は繋がっているのだと驚いた。その後、私は顧問の先生に悩みを打ち明け、自分の思っていることを文字にして表した。ずっと、泣きそうになりながら話しているのに優しく聞いてくれる先生に温かさを感じた。また、文字に書き出すという単純なことなのに心がなんだか楽になる感じがした。
メンタルヘルスは他の病気と違い、目に見えないため重要視されにくい。さらに、自分でも気付きにくい問題なのだ。しかし「メンタルヘルスは、ただのわがままだ。とか、怠けているだけだ。」などと勘違いされやすいのが現実だ。この現実から脱却する必要があると考える。
最近はスポーツ界でメンタルヘルスは注目されている。2021年の東京オリンピックでは、シモーン・バイルズ選手が自身のメンタルヘルスを重要視して、体操競技の一部を棄権した。この行動は世界にメンタルヘルスの重要性を訴えるものであったと受け取ることができる。著名人の行動は世の中に大きな影響を与えてくれると思う。私は少しでも皆が、メンタルヘルスに理解を示してくれる社会を願っている。そして、皆がメンタルヘルスを大切にしてほしい。何か悩みがあったらすぐに誰かに打ち明けてほしい。誰かに「辛い」と打ち明けるのは勇気がいることだ。自分の弱みを見せることは恥ずかしいと思う人も多いだろう。しかし、それ以上に心がスーと楽になる。それができなかったら、ノートに自分の思っていることを整理することも良い方法だと考える。心の健康は目で確認ができない、だからこそ重要視するべきだ。一度自分の心と向き合ってほしい。
最後に私は経験したことを忘れずに、今度は私が悩んでいる人の相談に乗り、その人の心に寄り添うことができる温かい人になりたい。