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医師会からのお知らせ

第29回健康と医療作文コンクール

山梨放送賞

「けがの経験が私に教えてくれたこと」
平林 華
甲府市立西中学校1年
私は今年の春、今までにしたことのない経験をした。それは、両足の捻挫だ。中学校に入学したばかりでまだ慣れない校舎の階段差で起きてしまった。その日から私の生活は一変した。毎日何気なくできていた動作は、ひとつひとつが痛くて難しい。当たり前だった楽しい体育の授業も、ただ見ているだけ。
特に悔しい思いをしたのは、大好きな水泳だ。私は週に5日、スイミングクラブに通っていて、目標に向かって練習をする。そんな私にとって両足が満足に動かせない状況は、とても残こくな事だった。捻挫をする前は、これまでにないほど調子が良く、夏の大会へ向けて良い練習が積み重ねられていた。だからこのまま良いイメージで「行ける!」と意気込んでいたのだ。それなのに、今の私は簡単な基本の練習さえできない。そんな私のとなりで普段通りに仲間達は練習をしている。いつもの光景なのに、練習している姿がうらやましい。自分で自分が歯がゆく、情けなかった。
「このままではタイムはどんどん落ちていくかも…。」
そんなおそろしい予感が自分の頭の中にぼんやりと浮かんでいた。
整形外科の病院では、足首のどこがどの方向に動かすとどれくらい痛むのか、先生は毎回ていねいにみて下さった。私が病院に通い始めたころは、ちょうど新型コロナウイルスの感染者が増えてきた時で、以前から決まっていた県外の大会の日程とも重なっていた。しかし、けがのせいでしっかり練習ができなくなってしまっていた上に、この感染状況での参加はどうしようか迷ってもいた。先生にその気持ちを正直に伝えてみると、先生が、
「こんな時だし無理に遠せいを考えず、きちんと足を治すことに専念したらどうですか?もし感染してしまったら、大事な肺にダメージを受けることになります。そうなったら水泳そのものをあきらめなければならない可能性もありますよ。」
とおっしゃった。痛む足のことや、大会に出られないかもしれないことばかり考えていた私はハッとした。先生がけがの事だけでなく万が一感染してしまった時の体全体のことや、その先の事までも心配して下さった言葉だったからだ。先生のそのアドバイスの意味を何度もくり返し考えた私は、残念な気持ちも少しあったが、その大会を見送る決断をした。そして、次の大会へと目標を切り替え、今の足の状態でもやれる足の運動を先生に教えてもらうことにした。今できることをしておけば、完治したときにより良い練習が早くできるようになる。ほんの少しでも前に進めておきたかったのだ。
3週間後、やっとけがが治り、久しぶりに泳げるようになった時、水中で動かせる足の感覚が不思議だった。そして、けがの前までは当たり前に練習していたけれど、それが私によって本当に楽しくて、充実している大切な時間だったんだと痛感した。まるで初めて泳げるようになった時のワクワクした気持ちがよみがえってくるようで、一生懸命練習に向かえる自分がいた。そこから元の泳ぎにもどるには少し時間がかかったけれど、コツコツと取り組み、夏の県大会では二種目で優勝することができた。けがをした時の悔しさや苦しさをバネに努力した結果が発揮できたように感じて、これまでになくうれしさがこみ上げた。
私が日々の健康でいるために心がけていること、それは自分の不注意から経験した悔しい気持ちや努力したいと思う意欲から、毎日続けている2つのことがある。
1つ目は、水泳の練習の前後に取り入れているストレッチだ。初めは、もうくり返したくないけがの防止のために毎日やっていたが、そのうちに水泳にも良い変化があることが分かった。例えば、肩回りがやわらかくなったため、うでを回す動作がきれいになりフォーム改善につながった。すると、自然にスピードも出せるようになったのだ。
2つ目は、バランスの良い食事をしっかりとることだ。ちょうど一学期の家庭科の授業で、六つの食品群を学習し、毎日口にする食品のひとつひとつに私達の成長や健康にかかせない大切な栄養がつまっていることを知ったからだ。母が用意してくれた食事だけでなく、自分で率先して足りない食品をとると、次の日の疲労感が全く違うことも分かってきた。
振り返れば、けがをした事は大事な学びの経験だったように思える。自分が健康でいる事の大切さ、日々の学校や水泳で頑張れている周りの人達の支え、それに感謝しながら、けんきょな気持ちで自分の体調管理を忘れずにいたい。また、自分の健康を維持することに加え、今のような時だからこそ広い視野で状況をとらえること、先を見通す判断力をつけることが、周りの人の健康にもつながるんだと気づけた。病院の先生からは治療以上に、大切な考え方を教えていただいたように思う。