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医師会からのお知らせ

第26回健康と医療作文コンクール

佳作

「不妊治療を経験して」
小林 まゆみ
笛吹市
私は3か月の息子と、夫の三人で暮らしている。この日を迎えるまでには8年間という長いゴールの見えない日々を経なければならなかった。きっと30代位の健康の女性なら、その時にならないと誰もが自分が不妊治療の対象になるとは考えないと思うが、それはある日突然、自分の多くの時間や精神的負担、経済的負担を抱えてやってくる。
私は37歳で結婚した晩婚だが『子供はすぐにできるだろう。』と考えていた。また、不妊外来受診にためらいもあった。
結婚当初、看護師として、夜勤や日勤もある不規則な勤務。休日も会議等で出勤もある。他に健康や妊娠の準備としてスポーツクラブにも月に5回ぐらい通っていた。食事については短時間で簡単に作れるもの。この生活の中で4年間もの長い間様子を見たが、40歳になりこのままではいけないと感じ、不妊症外来を受診して治療を開始した。治療開始後もすぐに妊娠できるような感覚でいたが希望はかなわず、初めにお世話になった病院から、山梨大学医学部付属病院(以後医大)を紹介され通院。治療法を変更し1年間通院、良い反応はなかった。私は44歳になり焦っていた。
そこで、職場の上司や同僚にも相談し、断腸の思いで不規則な勤務もある元の職場を退職し、仕事を別の施設で週4日間日勤のみの体制にした。食生活も体を温める食事や栄養面に気を配り、食べる時間も整え、スポーツクラブにも月10日以上通い、夜は23時までには必ず眠るようにした。また、体を温めリラックスできるように散歩もした。職場を変えて4か月、医師から「現在行っている治療に加えて、別の方法も試してみましょう。」と提案された。私はどんな方法でも子供が授かるなら受けてみたいと思い、この方法できっと子供を授かれるのではないかと大きな期待を持って治療に臨み、妊娠することができた。つわりもなく、体重も全妊娠期間で7㎏の上昇に抑えられ、各種検査も問題なく、体調良好で仕事も産休まで務めることができた。産休に入ってからは、スポーツクラブに月に15日前後通い、体重、食事管理も注意した。
そして、無事に今年6月20日、2,912gの元気な男の子を出産することができた。この日を迎えるまでには、医師の努力と精神的なサポート、助産師の皆さん、子供ができないことを責めることもなく、見守り続けてくれた家族、受診の際の勤務交代なども快く受けてくれた新旧職場のスタッフ、多くの友人知人の心の支え無くしてありえなかった。皆に支えられて今があることを本当に感謝している。また、私の出産を知った、新旧職場仲間や友人、親戚、私が関わらせていただいている患者会の皆様から温かいお祝いの言葉や励ましをいただき、本当にありがたかった。今もそのことは忘れていない。息子が大きくなったら「多くの方々の支えと愛情があって、今、君がここにいるのだから自分を大切に夢と希望をもって生きていってほしい。」と伝えていきたいと思う。
今、不妊治療を経験した私が若い女性に伝えたいことは、私は、多くの方々や医師の力で無事に子供を授かることができたが、将来子供を欲しいと思う女性はやはり少しでも若く健康なうちに妊娠、出産を考えていただきたい。本当に不妊治療は経験したものでなければ分からない、ゴールが見えない、治療しても必ず成果が出る保証はない辛い治療であり仕事をしていれば、時間を調整したり、休みをもらったり、周りの方々にも迷惑をかけ、時には退職も考えなければならない。また、不妊治療は、各種助成金はあるものの医療費も高額であり経済面を圧迫する。医療的処置をしなくても自然に授かれるものならば、それが一番だと思う。また、医療的処置をする場合も、若く健康であれば、それだけ妊娠の可能性も高く、治療も取り組みやすい。年齢が上がれば、自分もハイリスクとなり、生まれる子供にも危険が及びやすい。
多くの女性に、子供を持つ幸せを感じてほしいし、子供が一人生まれると、その子を中心に、沢山の人々に希望を与え、幸せにしてくれる。私が出産後、子供を連れて外出した際、見ず知らずの方々も、笑顔で声をかけてくれる。勿論身内や新旧職場仲間、友人はもっと喜んでくれる。また、自分たちの人生観や価値観も大きく変わる。子供だけでなく、周りの方々も大切にしたい気持ちが溢れてくる。この子が産まれてくれなかったら、味わうことがなかった感情かもしれない。
将来子供を産みたい女性の皆さん、自分の人生を大切に、どんなふうに生きたいのかを模索して子供が欲しいと思うなら、自分の体と語り合い、大切にし、素晴らしい新しい命を誕生させていただきたい。女性は子供を産める素晴らしい体を授かっているのですから。
今後私は、この多くの方々に支えてもらって授かれた命を大切に守って、多くの方々に感謝して生きていきたいと思う。