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医師会からのお知らせ

第23回ふれあい医療作文コンクール

佳作
「看護の心にふれて」
岡 恵梨菜
甲府東高校2年
私の叔母は末期のガンであった。それまで抗ガン剤治療を受けていたことは知っていたが、思っていたよりも病状は悪化していた。この前会ったときは元気だった叔母がやせ細り、苦しそうにしている姿を見て衝撃を受けた。何とか少しでも体を楽にしてあげたいと思い、私は一生懸命に叔母の体のあちこちをさすってあげた。私の両親などは夜通しさすってあげていた。
ある時、私の顔を見た叔母は、
「ごめんね。ごめんね。ダルいの。辛いの。苦しいの。もう死にたいの。」
と泣きながら言った。私は何と答えたらよいのかわからず言葉に詰まってしまった。そんな時、担当の看護師さんが、優しく叔母の体をさすりながらこう言った。
「死にたくなるくらい苦しいんだよね。辛いんだよね。」
と、まるで我が身のように声を掛け、病気で苦しんでいる叔母に寄り添ってくれた。そんな看護師さんの姿を見て、私も将来、病気で苦しんでいる人のために役に立てる看護師になりたいという気持ちが強くなった。世の中には病気で苦しんだり悩んでいる人が大勢いるが、患者さん一人ひとりの心に寄り添い、時には励まし、時には一緒に悩み、またある時は共に笑えるような看護師を目指したいと強く心に誓った。
叔母は今年の4月にこの世を去った。看護師さんはとても丁寧に対応して下さり、言葉では言い尽くせないほど感謝の気持ちでいっぱいだった。叔母の入院中から最期を見届けて下さるまで、病人である叔母にはもちろんのこと、親戚である私たち家族にまで気を配って下さり、その優しさと思いやりに私は強く心が打たれた。いつかは私もこんな看護師になりたいという気持ちや、亡くなった叔母のためにも、将来、看護師として病気で悩んだり苦しんだりしている人のために役に立ちたいと思う気持ちが一層強くなった。
その後、一日看護体験の案内が学校に届いていることを知り、早速申し込んだ。本校からも大勢の友人が参加したが、私は甲府市内の病院の地域包括ケア病棟に体験の配属が決まった。実際に病院での体験ができるので楽しみでもあり、またその反面で不安な気持ちもあった。
しかし、実際に看護体験が始まると、看護師さんが、優しく詳しく説明をして下さったので、不安や緊張も自然と消えていった。体験では、患者さんの体を拭いてあげたり、お話しをしたり、一緒に体操をしたりした。また、入浴の様子を見学するなど普段ではできない貴重な体験をさせていただくことができ、とてもよい経験になった。
特に私が勉強になった点が2つある。1つ目は患者さんとの触れ合い方の大切さである。私の母は理学療法士をしている。幼い頃、その母に付いて行き、母のそばにいながら患者さん達とお話しをした経験が多かったので、話をすることには慣れていたつもりだったが、いざ実習へ行って患者さん達と話をしてみると、言葉に詰まってしまうときがあった。その時、患者さんの一人が、
「会話をするのも看護師の仕事なんだよ。」
と私に言った。私は亡くなった叔母が存命中に看護師さんから優しくいろいろ話し掛けられていたことを思い出した。話をしてコミュニケーションをとるということは本当に難しいことだなと感じ、あの時の看護師さんの様子を思い出して、改めて感心した。そして『言葉の力』の大切さを強く実感した。
2つ目は、患者さんを見る『目』である。いろいろな患者さんがいる中で、一人ひとりに合った対応をしている看護師の姿に感動した。 患者一人ひとりをよく見て、微妙な変化や表情にも気づく看護師の『目』はすごいと思った。いつも気を配ったり、注意をしたりしなければできないことであり、そんな目配りができる看護師に尊敬の念を抱いた。
看護体験を通して、ケアの技術や大切さやポイント、さらに患者さんとの会話の重要性を知ることができ、大変勉強になった。
看護師という仕事は決して楽な仕事ではないと思うが、患者さんの近くに寄り添いながら、少しでも苦しみや悩みを取り除き、力になれる素晴らしい仕事だと私は思う。看護師がその患者さんに対してやってあげたことは、反応として返ってくるので、その分やり甲斐も感じられるだろう。
私は今、看護の道を目指して勉強に励んでいる。できることなら、世界で貧困に苦しむ人々の役に立てるような看護師になりたい。まだまだ道は遠いが、夢をあきらめず、一歩一歩進みながら、一人でも多くの患者さんを救うことができる看護師になりたい。叔母の病気を通して優しく接して下さった看護師さんや、看護体験でいろいろ教えて下さった看護師さんに近づけるよう頑張りたい。 天国の叔母もきっと見守ってくれているだろう。