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医師会からのお知らせ

第23回ふれあい医療作文コンクール

優秀賞
「心のケアをしてくれるのは」
向井 豪
山梨大学附属中学校3年
2ヶ月前、父の手術があった。父の心臓の不整脈の手術だ。手術の時間になると、テレビなどで見る手術の映像での緊張感をはるかに越えた何かが私を襲う。「もし、失敗してしまったらどうしよう」「本当に、これで治るのだろうか」という不安が何度もよぎる。それから、手術が終わったという連絡を受けると、それまでの緊張が一気に和らいだ。
私自身は、その手術を待っていることしか出来なかったが、実際にその手術をしている医師の方々は何を感じているのだろうか。人の命を扱うのだから、きっと不安や緊張でいっぱいにちがいない。私は、大事なテストや試合の時はその時の緊張から自分の力を出しきれなかったり、失敗してしまうことがある。だが、手術の時には1つのミスが大きな失敗を招いてしまうと聞いたことがある。そのような緊張と闘いながら手術をする医師の方々を、改めて「すごい」と感じさせられた。
私は今でも、幼少期のころからお世話になっている小児科の先生の元へと通っている。そのことを以前、友達に笑われてしまったことがあったがやはり「小さいころから自分を知っていてくれている」というだけでも、診察してもらう時には非常に安心できる。私は幼いころ、ぜん息を患っていたことがあり、それが悪化した時などに診てもらったが、普段通りに話をしてくれたので、非常に安心して診察を受けられた。また、風邪をひいていた時などには「今日はいつもより顔色が悪そうだね。」と顔色を見るだけで分かってくれる。そして、テストなどが近い時には、診察にあまり関係ないのに「100点を取ってこいよ。」などといろいろな話ができる。そのようにそっけない会話であったとしても、非常にリラックスできたり、相談にものってくれるので、不安も解消してくれる。医師の方々は、ただ私達の体を治してくれるだけでなく、心のケアまでしてくれているのだ。私達は不安な時、「大丈夫だよ」や「どんまい」という言葉をかけてもらえるだけでも、かなり不安が和らぐ。このことは医療という場だけでなく、どのようなところでも、非常に大切なことであると思う。「心と心のふれあい」というものがどれだけ、私達を安心させてくれているのかということを、このような経験から学ぶことができた。
私は以前、テレビのドキュメンタリーで脳外科の先生の話を聞いたことがある。その先生が、「私はずっと、現役のままで手術をしていきたい」と言っていた。だが、なぜそこまで現役でいたいのか私には分からなかった。もし、私がその先生の立場であったならば、ずっと人の命を扱い、その緊張に耐え続けるのは非常に難しいと思う。しかし、「私は救える命ならば、一人でも多く救う。」と話していた。先生にも、私が考えている以上に緊張したり、不安になってしまうことは多いかもしれない。それでも、私達を「一人でも救いたい」と思っている先生方が周りに何百人、何千人、何万人といてくれるのは非常に心強いと感じる。たしかに、私達は人間である以上、さまざまなことに不安や恐怖を感じたりする。それでも、それに打ち勝ち、自分の目的や目標を成し遂げようとすることは、最も大切なことであるように思う。私自身も、そのような不安に打ち勝ち、自分にできるかぎりのことをしていきたいと思った。
私はさまざまな先生達と会い、その話を聞いたりしてきた中で、「心と心のふれあい」の重要さ、「自分にできるかぎりのことをする大切さ」というものを学んできた。また、たとえ先生達にとっては医師という仕事であっても、父や私の病気を治し、多くの会話をして、いろんなことを相談できるというのは、私達にとっては大きな救いであるように思う。
私は、小さなころから体が弱く、さまざまな先生方に助けられ、その姿を見てきた。今度は、私が他の人を助けるために医師になるという目標がある。私は、すぐにあきらめてしまったり、緊張すると全く自分の力が出しきれなくなってしまう。だから、これからは自分にできるかぎりのことをしっかりと行い、自分自身を信じてがんばっていきたい。そしてこれからは、私が周りの人を気づかい、少しでもその人の心をケアしてあげられるよう、周りを見て行動できるようにしていきたいと思う。