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医師会からのお知らせ

第23回ふれあい医療作文コンクール

優秀賞
「あの手術が教えてくれたこと」
土屋 恵美
甲府市
息子が生後間もない頃、手術しなければならないことが分かった。体力的なことを考えて、生後3ヶ月になるのを待って手術することになった。大した手術ではないとはいえ、手術と無縁の生活を送ってきた私にとっては不安ばかりだった。息子にとってはもちろん私にとっても初めての手術。まして、こんなに小さい赤ちゃんが手術だなんて、と不安は大きくなっていった。手術の為に入院すると、そこは4人部屋だった。3才位の幼児から小学校高学年の子供たちで、それぞれお母さんが付き添っていた。お母さんたちは子供に不安を与えないように笑顔でいた。その様子を見て、私だけがこんな思いをしているのではないと思えた。子供たちは変わらぬ雰囲気で過ごしていた。私も冷静にならなくてはと思ったことを思い出す。同時にこんなに沢山の子供たちが手術を受けるのかと驚いた。当たり前のように「子供は元気なもの」と思っていたからだ。
手術の説明を聞いた。手術前は母乳をあげられないということでギリギリの時間に母乳を飲ませた。何も分からず一生懸命飲んでいる姿を見ているだけでつらくなった。時間になり、小さな体は手術スタッフの方へ引き渡された。待っていた時間は、今まで感じたことのない長さだった。1時間経ったかと思ったら5分も経っていなかった。どれほど待ったか記憶はないが、手術が無事に終わって眠っている姿にほっとしたのを覚えている。目を覚ました後、痛がることもなくご好嫌になって笑った顔を見た時、診察から手術まで関わっていただいた全ての方々に感謝した。
先生の説明は丁寧で、「分からないことありませんか。」と聞いてくれた。先生にとっては呆れるような質問でも真剣に聞き、答えてくれた。不安は減り、安心感が生まれた。術後の説明も丁寧だったので、息子の体で何が起こっていて、どのように手術が行われたかをよく知ることができた。
手術なんてやらないでいいのなら、それが一番に決まっている。でも、あの手術があったから沢山のことを知ることもできたし、感じることもできたと思っている。
大勢の医療スタッフが、今この瞬間も病気で治療を必要としている人の為に働いている。普段気にしていないほど当たり前に思えるが、感謝しなければと思えるのも、息子のおかげだと思っている。
あれから10年の月日が過ぎた。息子は大きな病気もケガもなく、スクスク育ってくれた。「もお。」と怒ってしまうこともあるくらい、今ではちょっとやんちゃな4年生になった。息子の手術の跡を見るたびに、健康でいてくれることの素晴らしさを感じる。そして、感謝するのだ。
今日も大きな声で「行ってきます。」と学校へ行き、はじけるような笑顔で「ただいま。」と帰ってくる。この当たり前の日常が、かけがえのない宝物だということを、あの手術の跡が教えてくれる。