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医師会からのお知らせ

第23回ふれあい医療作文コンクール

佳作
「団体戦」
田野口 梨央
甲府南高校2年
私は現在16歳。この16年間大きな病気を言われるようなものとは私自身、無縁の話だった。なのであんな形で私が「病気」というものと付き合っていくことになるなんて、思ってもみなかった。
私の家族は4人家族だ。しっかり食べても、しっかり寝ても、病気には通用しないんだなと思った。家族の健康を一番に考えて、3食分の献立を考え、誰よりも健康に気を遣っていたお母さんが病気になった。それも乳がんだった。よく「神様は不公平」というけれど、本当にその通りだと思った。なんで、なんで私のお母さんが。そう思った。
テレビや新聞では、女性に一番多いがんとして乳がんが上がっていたことは私も分かっていた。それでも受け入れるのは難しい。ステージとか初期とか言われても、何にも理解することができないもどかしさを私は味わった。それでも前向きに笑顔でいるお母さん。すごいなと思った。私には無理だと、そう思った。
お母さんは2日間だけ入院することになった。部活が終わって病院へ行き、担当の先生に会うことができた。優しそうな、頭の良さそうな先生だった。その時初めて安心という何とも言えない温かい感情が私の中に現れた。
「この先生が居るなら大丈夫だね。」
心の底から思うことができた。
がんを治すには、乳がんだけに限らず、抗ガン剤を投与していかなければならない。抗ガン剤を投与する周期がある。私は髪の毛が抜けるだけだと思っていたので、それはとてもつもなく甘い考えだったということを今なら身にしみて分かる。抗ガン剤を投与したお母さんは高熱が出たり、ご飯の味が分からなかったり、頭痛がしたり、足がむくんでしまったり、多すぎるほど症状が出ている。
乳がんだけじゃない。世の中には他にも数え切れない程の病気があって、その病気に苦しんでいる人たちがいて、その人たちを支えている医療に関わる人たちがいて、様々なもので成り立って、支え合って、助け合ってできている。病気になるとという風に健康な体で過ごしている私には考えることもできない。しかし、病気の人を近くで見ていて、改めて本人の苦しさや辛さは本人にしか分からない痛みなのだろうと思った。辛くても、具合悪くても毎日毎日仕事をしているお母さんはすごいなと思う。だから私も頑張らなきゃといつもいつも奮起させられるが、そんな私はお母さんには到底敵わないだろう。
病気を抱えて生きている人と接していると、自分が小さく見えてきた。疲れた、暑い、眠い。言いたい放題、やりたい放題だ。そんな自分が恥ずかしくなってくる。お母さんはすごいと思う。強いと思う。お母さんの病気と闘っているのはお母さんだけ?いや、違うだろう。お母さんは支えられている。お父さんにも、おじいちゃん、おばあちゃんにも。そして担当の先生、看護師さん、職場の人にも。たくさんの支えがあってお母さんは闘えている。そんなお母さんは本当に強い人だ。私は病気になったことがないので、その人の気持ちまで分かることができない。それでも、分かりたいと思うことはできる。力になりたいと思うことができる。それを行動に移すこともできる。やれることは考えれば考えるだけたくさん出てきた。だから私は行動する。
お母さんの病気は、お母さんだけのものではない。それに関わるすべての人の問題だと思う。一人では闘えない。これこそ私は団体戦だと考える。みんなで闘っている。個人戦ではない。病気は団体戦だ。