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医師会からのお知らせ

第21回ふれあい医療作文コンクール

山梨県医師会長賞
「命を見守るやさしさから学んだこと」
岡 桃歌
駿台甲府小学校5年
その時は突然にやってきました。
おじいちゃんおばあちゃんと一緒に夕ご飯を食べ、楽しくすごして、つい二時間ほど前は、あんなに元気だったおばあちゃんが、急に倒れて、救急車で病院に運ばれたという知らせが、おじさんからありました。
おじいちゃんと二人で暮らしているおばあちゃんは、もうすぐ70才になります。二人とも元気で畑にいっては、季節ごとの野菜を作り、いつも私たちに食べさせてくれるやさしいおじいちゃんとおばあちゃんでした。
私は、とても信じられないまま、家族と急いで病院へ向かいました。向かう車の中であのやさしいおばあちゃんの笑顔が浮かんで、とても気がかりで心配で仕方ありませんでした。
おじいちゃんの話では、夜めったにおトイレに行かないおばあちゃんが、10時頃寝室を出たが、しばらくたっても戻らないので、心配になって見にいったら、リビングの所で倒れていたということでした。
私は、大好きなおばあちゃんを誰でもいいですから助けてほしい。おばあちゃんの大切な大切なたった一つしかない命を、かけがえのない命を救ってほしい。その時の私に出来る事は、ただ、ただそう願う事だけでした。病院に着くと、意識の戻らないおばあちゃんは処置室へと、運ばれていました。そこへは、子どもは入室できない状況でした。誰もいない静かな病院の待合室で、どれだけ時間がたったのか気づきませんでした。ふだんは気づかない壁にかけられた時計の秒針の音だけが、静かに私の耳に、心に響いていました。ふと目に入った、病院の窓の外の暗さは、私の言葉にならない心の不安に、すうっと忍びよってくるような気がしました。
そんな私にお医者さんや看護師さんは、とてもやさしくしてくださいました。私の手をしっかり握り、子どもの私にもよくわかるように、ていねいにおばあちゃんのようすを説明してくれたのです。私は、お医者さんや看護師さんが説明される言葉の一言一言をゆっくりと、のみこむように聞きました。私は看護師さんと話すうち、しだいに心の不安やどうしようもない切ない気持ちが少しずつうすれていくのを感じました。
そうして看護師さんが、はなれる時に、
「おばあちゃん大丈夫だからね。」
と、ほほえみながら勇気づけてくださったその言葉は、私のくじけそうな気持ちを、しっかりと支えてくれました。
おばあちゃんは、お医者さんや看護師さんの言われた通り、意識も戻って子どもも面会できるようになりました。処置室のベッドで横たわっているおばあちゃんは、少し苦しそうでしたが私が手をにぎると、そっと握り返してくれました。おばあちゃんのやさしいその手のぬくもりが、自然と伝わってきました。
「おばあちゃん、早く元気になってね。私がずっとそばについているからね。私がおばあちゃんもぜったいに守るから、安心してね。」
おばあちゃんは、口びるにぎゅっと力を入れて、小さくうなずいてくれました。
おばあちゃんの苦労した手を私もにぎりかえしがら、病院で出会ったお医者さんや看護師さんのように、困っている人や助けを求めている人たちに出会ったら、私も迷うことなく手をさしのべられる人になりたい。そう心に誓いました。
一つの命は決して一つの命だけで生きているのではなく、その一つの命を包むたくさんの命によって守られているということを、私はこの時学んだ気がします。
私も、一つの大切な命をしっかりと守ることができるような、そして包みこむことができるようなそんな人間になりたいと思いました。